それは突然のニュースだった。
地元で20年以上も続いていた某温泉施設が1月31日をもって閉館するとのことだった。
どういった事情かは全く分からない。経営難なのか、施設の老朽化なのか、はたまた別の理由か。とは言え、自分の街のシンボルの一つとして存在する場所があまりにも急に終わりを迎えるということに衝撃を受けた。
自分は小学生の頃からその施設にお世話になっていた。自宅からもかなり近い距離なので度々入浴をさせていただいたものである。
最近では「サウナブーム」なんてものがあり、スパや健康ランド的な施設が盛り上がりを見せているが、ここの施設のお風呂はずばり天然温泉。地中から沸々と湧き上がってくる効能たっぷりなそれなのである。遠い記憶ではあるが、20年くらい前に「温泉が掘れたぞ!!」と局所的に話題になっていた覚えがある。ワクワクすることが起きたなと、子どもながらに嬉しくなった記憶がある。温泉がある地元、というのが誇らしくも感じられた。
思い出は多い。友と湯に浸かりあれこれと語り合ったこともある。仕事終わりに行って日頃の溜まった疲れを癒したこともある。近年では家の給湯器が突如壊れてしまい、その時も急遽助けてもらったのである。
私は地元を愛している。実家時代〜一人暮らしの今にかけて20年以上離れることなく同じ街に住んでいるが、自分の生活圏内に当たり前のように在った場所だ。それが無くなるというのだから、非常に寂しい。
1月31日最終営業日、仕事の後に向かうことにした。最後に入らなければなんだか後悔しそうだなと思ったのと、今までお世話になってきた義理を果たすためでもあった。ありがとうね、と。
22時、閉館1時間前に入館。まず驚いたのは普段では見慣れないその人の多さであった。正直に言うがこんなに人が多いのはかつて見たことがない。恐らく皆同じことを考えて、同じ思いを抱えて此処に来ているのだろう。最後の湯と、この空間の雰囲気を心身に刻もうとしているのだ。それが感じられてどこか嬉しかった。
大浴場に行きふと見ると、サウナには順番待ちの列ができていた。少し異様な光景だ。全体的に人がひしめき合っていた。野郎の群れで賑やかであった。今日で閉館という、特別な日の雰囲気をこれでもかと感じさせられる。そしてそれこそがこの場所が終わるという「実感」に直結していることは言うまでもない。
「あー、本当に終わるんだな」と切なくなりながら自分もいつものように過ごす。いつものように、大して勢いの無いシャワーを使い全身を洗う。そしていつものように先ず露天風呂に向かう。まあしかし人が多い。「すいません」と人の間をすり抜け、いざ入浴する。はぁ、とため息が溢れ出る。心地が良い。堪らない。お風呂は素晴らしい。とりわけ大きい風呂は。
この露天風呂から見える夜空とスーパーの看板が好きだった。全くもって大層な景色ではないが、自分にとっては丁度良かった。「生活の中にある至福」とはこのことを言うのだろうと。
露天風呂のテレビではKing & Princeの永瀬廉くんのドラマが映されていた。彼は良い演技をしていた。話の内容は分からないが、なんか沁みた。しかしキンプリも本当に勿体無いよなぁ、と。突然当たり前のものが終わってしまうのはとても寂しいのである。
最後のジェットバスも堪能した。背中に受ける強めの水力が心地良い。並びの列が途切れた頃、ちゃっかりサウナにも入った。特別熱さが得意なわけではないので短めに。だが、少しだけととのった。
時間もそこまでなかったので、ひとしきり全体を堪能し大浴場を後にした。やはり来て良かったと思った。「良い湯」と「良い空間」は確かにそこに存在していた。最後に改めてそう感じた。
やれ感傷である。永遠というものはこうも存在しないものだ。当たり前にあるものはふとしたタイミングでスッと消えてしまうことがある。アニメのポケモンだって、サトシが引退してしまうことに心底精神的なダメージを受けているのだ。サトシはともかく、ピカチュウやロケット団はどうなっちまうんだと。あいつらいつまでも居るんじゃなかったのかよ、と。本当人生って寂しいもんだよなと思ってしまう。
この素晴らしい温泉施設はどうなってしまうのだろう。一つの歴史は途絶えてしまったが、綺麗さっぱり丸々無くしてしまうのは勿体無いと思う。どうか別の会社が引き継いでまた新たな形で続いてくれないかと切に思う。
素敵な未来がこの先にあれば良いなと思う、何事も。
ではまた!