アッチの街の片隅から愛を込めて

迸るほどの愛を込めて、濃厚かつ丁寧に音楽その他色々を語ります。

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夏こそ読書だ!2020 岸川悦子「青い部屋」

青い部屋

 今回ご紹介させていただく一冊は岸川悦子「青い部屋である。

 

www.atsudays.work

 

なんか夏っぽいでしょ?と言いたい。タイトルからまず惹かれるのである。そしてどこか物憂げで意味深な表紙。確か中学生の頃に地元の図書館でたまたま見つけて借りて読んだ記憶がある。以降、ふと読みたくなった時に図書館で借りては読んでいる。

 

カテゴリーとしては児童小説である。子どもが読解しやすい言葉遣いとボリュームであり、かつ多感な思春期の少年少女たちに捧げられるメッセージ性の利いた内容となっている。しかし、重厚かつ綿密に書き上げられた一般小説よりも、児童小説こそがよりストレートに刺してくるものがあるのである。柔らかな語りかけと、逆に深くは語り過ぎない物語、そこに我々の心情が自由に入り込む余地があるからかもしれない。そして何よりも、文字が大きいので読み易いのである。活字が不得意な方は児童小説から入ってみるのも良いだろう。

 

 

家族間のすれ違いによる軋轢と、その再生を描いた物語である。小学六年生の徹という男の子が主人公である。彼は、厳格な父親とのコミュニケーションが上手くいかず、やがてノイローゼとなり心身ともに朽ち果ててしまう。性格や考え方の不一致が生じながらも、やがて少しずつ歩み寄り徐々に互いの気持ちが分かってきて…といったところである。また、それらを取り巻く徹の母親と妹、徹のカウンセラーらが彼の心を右往左往に揺さぶり、動かしていくのである。

 

青い部屋」なんていう爽やかで夏っぽい内容を想起させるタイトルであるが、実際のところは割と暗いものなのである。現実において私は小学生時代より母子家庭で育っており、一般的な父親という存在についてあまり理解していないところがあるが、主人公・徹の心の孤独感や不安感といったものには非常にシンパシーを覚えるものがあった。私自身の精神が不安定だった時期もあったので、たとえ徹と立場や理由が違くとも胸に押し寄せてくる感情の波があったのである。

 

当然ハッピーで楽しく愉快痛快な物語を味わった方が、精神的には良いと思う。しかし、こういった陰の要素も含み取ると、より自分の考え方や人生に起伏が生まれて良い意味で複雑なものになってくるのである。色々な感情が生まれ混ぜこぜになることが刺激的であるのだ。実際、単純に好きなだけなんですけどね。笑

 

読んでいて自然と泣けてしまうのである。胸にチクリとくるものはあるが、やがて垣間見れる希望の光と少しずつ開いていく徹の世界に、いつの間にか私の涙は垂れ落つるのだ。あまり解らねえやって方も当然いると思うが、ちょっと一人で物思いに耽りたいような、そっとしていて欲しいような気分の時にはこの作品から何か得られるものがあると思う。

 

 

というわけで「青い部屋」、全年代にお勧めでございます。ご興味があれば是非とも御一読をば!

ではまた!

 

 

青い部屋

青い部屋