2020年3月4日リリースの鶴の最新アルバム「普通」のCDを購入したのである。このご時世でフィジカルCDを買うことに、私の鶴というバンドへの熱量を感じていただければ幸いである!
“誰もが好きになる音楽”こそが鶴!
埼玉県鶴ヶ島市出身のスリーピースバンド、鶴。2003年に結成し、2008年ワーナーミュージックよりメジャーデビュー。2013年より自らのレーベル「Soul Mate Record」を発足し、以降音源リリースにライブと、今日まで精力的に活動を続ける。
2019年10月には地元鶴ヶ島市・鶴ヶ島運動公園にてバンドの念願となる初の主催音楽フェス「鶴フェス」を開催。11,000人の来場者を記録し大成功を収める。
中学校時代の同級生3人からなる、この鶴であるが、その長年の連帯感と信頼から生まれる音楽は、非常にソウルフルでパワフル、そしてハートフルである。そこには“いつまでも良い音楽を届ける”という図太い芯が存在し、彼らの音楽観や人間性もとい人柄が色濃く表現されている。彼らの音楽はとにかくアツいのだ。そしてそれは火傷しそうな熱さとホットココアのようなほっこりとする熱さ、その両方であると言えよう。
スリーピース編成、そして鶴ならではの“メンバーの顔がハッキリと浮かぶ”歌とサウンドが癖になるのである。そこには安心感も存在する。とにかく骨太で強靭なバンドサウンドであり、各人のテクニックも秀逸で安定感抜群なのである。故に彼らは“THE ライブバンド”なのである。2013年の自主レーベル発足以降、47都道府県ツアーを3周にも渡って敢行するタフさは並々ならないものである。スクービードゥー先輩よろしくの現場至上主義。まさにミュージシャンシップに溢れているとしか言いようがない活動スタイルである。
普遍的なポップ感を大切にしたキャッチ―なメロディ、そして暖かさと力強さが溢れる歌詞からなる楽曲はまさに“誰もが好きになる音楽”である。彼らのライブでの入場SEがJackson 5の「I Want You Back」であることから分かるように、王道を愛し、そして信じ、その普遍的ポップスをこれからの世代へと受け継いでいくと言わんばかりの精神がひしひしと伝わってくるのだ。
とは言え、Vo.&Gt.秋野温の特徴的な歌声と、知識と技量に裏打ちされた拘りを感じさせる演奏が合わさることでそれは“鶴印”の音楽となるのである。これをまさにバンドマジックと言うのではないだろうか。
鶴の音楽を例えるのであれば「老舗のお弁当屋さんの幕の内弁当」だ。多彩なおかずが多くの人を惹きつけ、老舗ならではの拘りの味付けもピカイチ。そしてそれを出来立てホカホカのままどうぞ召し上がれ、と言ったところではないのだろうか。
生きる活力を与えてくれる埼玉の誇り
と言った形で情熱を込めて鶴について語っているが、私は彼らがまだ“アフロ時代”であった、2010年のメジャー2nd AL「期待CD」の頃からのソウルメイト(ファン)である。ライブにも沢山足を運んだ。上記の「鶴フェス」にも参加したが、あの多くの鶴ファン・音楽ファンが集い、楽しさを共有する景色は感動ものであった。心から嬉しく感じたと共に、私はこれぞまさに埼玉の誇りだと思ったのだ。
余談ではあるが、恐らくライブに行けば行くほど彼らのことが好きになれるだろう。演奏が素晴らしいことは勿論、MCが良いのだ。心に染みるアツいことを言うのである。音楽と言葉のダブルで、人々の背中を押し、生きる活力を与えてくれるのだ。それこそが彼ら「鶴」のモットーなのである。
洗練された流れと楽曲のクオリティが圧巻
そして本題の新譜「普通」であるが、これがもう最高でございまして。
とにかくアルバム1枚通しての流れが美しいのである。各楽曲による抑揚をしっかりとつけた展開で、アルバムの世界観に自然と浸れてしまうのだ。
そして既発曲の存在感がしっかりと立ちながらも、アルバム全体に上手く馴染んでいるのが素晴らしい!よく先発曲(俗に言うシングル曲)のクオリティが際立ちすぎてアルバム全体としての印象がぼやけてしまうパターンがあるが、それが良い意味で無いのである。新曲のキャラクターとポテンシャルがハイレベルで確立されていて、尚且つ曲順もしっかり練られていることにより、これが成されるのである。
まず1曲目のイントロダクション曲「イントロ~FUTSU~」から非常に雰囲気が良い!わずか31秒のトラックながら、この後始まる素敵なアルバムを予感させる音像である。そしてしっかりと“伏線”も張っているアレンジ。よって是非ともド頭からの通し聴きを推奨したくなる。
その後間髪入れずに2曲目「歩く this way」でいよいよ本格的に幕が開がる。既発楽曲であるが、これがもう最高に良い曲なのである。スムースな四つ打ちのリズムが軽快なポジティブなナンバー。このクオリティを軽く出せるところが凄い。
“いくつになってもゴールがないのは生きてる証拠だ
こだわりすぎて始まらないのはもうやめにしよう”
本当に背中を押されるのである。最高。
「冬の魔物」は、元々鶴の人気曲であるサマーナンバー「夏の魔物」のセルフオマージュ曲である。同一のコード感をベースにし、その共通項からも遊び心を感じさせる構成であるが、見事に冬の煌びやかを想像させてくれるウィンターナンバーと昇華している。
これもまた軽快でキラキラとしたナイスなポップソング。冬の空気感を連想させる音色を用いたアレンジが冴えている。これから冬になってから聴くのが楽しみである。
アルバムのリードトラックである「ペインキラー」もまた鶴らしい男気を感じる四つ打ちのロックナンバー。全体的に柔らかな雰囲気で進むアルバムに一つずっしりと、大きな抑揚を付けている。非常にライブ映えしそうなナンバーである。
Dr.笠井“どん”快樹作曲の「36.1℃」「きっとそう」といった、彼らしい暖かい雰囲気の楽曲がアルバムに一花を加える。緩やかなテンポの中、空間を上手く利用した音の埋め方が心地良い。また、Ba.神田雄一朗作曲の「Waiting Mother」は鶴らしい遊び心と笑い所が詰まったへヴィなファンクナンバーとなっており、アルバム通してメンバー各人の魅力が余すことなく発揮されている。
終盤でズシリと構えるのは、先述の「鶴フェス」のテーマソングでもあった既発曲「バタフライ」である。この曲の存在がアルバム「普通」の土台を固めてくれていることは間違いがないだろう。
名曲である。シンプルかつ骨太なバンドサウンドに美しいストリングスの旋律、そして秋野温の力強い歌声が絡み合うミディアムナンバー。とにかく必聴の1曲。
“遠回りしたって 近づいているんだ”
彼らがこのように歌い奏でるからこそ説得力のある言葉である。そうそう近道はなんてものは無いのだろう。ただ続けていくことで、少しずつでも目標に近づいていくのだと。
私が感じるのは、2013年の自主レーベル設立以降ずっとバンドの健康状態が良すぎるのではないかということだ。彼らの中にある伝えたい言葉、作りたい音像、やりたいことが明確となっており、それらが確実に楽曲や活動に表れているのだ。この「バタフライ」も、そういった鶴のメンタルとフィジカルが再現されている1曲だと感じざるを得ない。
その後続く「アナログなセッション」が私は特にお気に入りだ。人と人との“アナログ”な繋がりを大切にしたいと歌うこのナンバーは、時期からして図らずのことではあるが、コロナ禍の今だからこそ響くものがある。
そしてラストナンバー「結局そういうことでした」であるが、アルバムを締めくくるにはぴったりの重厚なロックナンバーである。マッドな心情も吐露されているが、言うなれば明と暗が共存こそがポップミュージックであると私は思っている。秋野温らしい、この世にある闇の部分も“放っておかない”赤裸々さこそが何よりも強いところなのである、と私は思う。終盤のコーラスワークがロックオペラを彷彿とさせ、アルバムは最高の余韻を残しながらその幕を閉じるのである。
こう語ってきたが、実際私は普段あまりアルバムの通し聴きということはあまりしないのである。楽曲を絞って、のめり込んでしまう傾向にあるのだが、この「普通」は全体を通して聴きたくなるのである。私個人としては、理想のアルバム像というのは“1周終わった後にすぐ繰り返して聴きたくなるか”というところにある。熾烈かつ濃厚な内容で壮大な聴後感を与える作品やアーティストも多く存在し、そういったものも好きであるが、“お腹一杯でもう食べられない”となるよりは、“まだ足りん!また食べたい!”となる方がどうやら性に合っている。非常に“馴染む”のである。その身近さこそが鶴が生み出す音楽の最大の魅力だ。
ともあれ、鶴の最新アルバム「普通」は最高のアルバムです!
是非とも機会があればご一聴いただきたい!
ではまた!